熱中症で書類送検されたが構成要件に疑義のある事例(Ⅲ)

●本件の経緯

 インターネットで次の記事を読み、私の監督官の経験知識からこれが法令違反に当たるとすることには納得できず、H労働局、H地検及び最高検に疑義照会をしているが回答がなく、今後、回答があり次第掲載したいと考えています。

●本件概要

 Y社が請け負った県道上での除草作業中、Y社の労働者が熱中症により死亡し、I労基署はこの災害に関して、「同作業場が当日の天候により高温(外気温28.8℃)となり、多量の発汗を伴う作業場となるため、労働者の発汗分を補う塩及び飲料水を備え、高温による健康障害を防止するため必要な措置を講じなかったことから、労働安全衛生法22条2号及び労働安全衛生規則617条に違反するとして書類送検後、I区検が略式起訴し、I簡易裁判所において法人及び現場代理人に各罰金10万円の刑が確定しました。

●送検法条

●労働安全衛生法違反

・Y工業(事業者:両罰規定)
労安法22条2号、労安則617条、労安法119条1号、労安法122条
・現場代理人(従業者:違反行為者)
労安法22条2号、労安則617条、労安法119条1号、労安法122条

●本件の解説

 私からみて、本件の県道上の除草作業は法令違反の構成要件該当性を充足せず、いわゆる「冤罪」に当たると解されます。
 その理由は、労安則617条の「多量の発汗を伴う作業場」の暑熱な環境とは、「労働者の作業場所が気温40℃以上」の労安則587条の製鉄所などの「暑熱な屋内作業場」及び建家の側面半分以上が開放されたもの、船舶やタンクの内部などの「暑熱な屋外作業場」を指していると解されます。
 本件の臨時かつ一過性の道路での除草作業を含めた屋外作業は、毎日同一場所及び同一内容の作業の反復ではなく、日々天候、外気温、湿度、風速など気象条件も日内変動を含めて時々刻々変化し、さらに、労働者の作業時間も常態として1日中連続かつ継続して作業することはなく、暑熱の屋内外作業場のような常態とした高温下作業とは違い、このような屋外作業には労安則617条は適用されないものと解されます。

 

■その他 事例紹介

■労安法違反が不起訴とされた事例 ■過重労働で書類送検された事例
■プレス災害で任意捜査に応じず逮捕された事例 ■賃金不払で労基法違反でなく最低賃金法違反で送検された事例
■法令違反を否認したにもかかわらず労基法違反で送検された事例 ■機械故障時の事後安全対策の不備で労安法違反で送検された事例
■退職労働者が申告した場合の労基署の対応は? ■労働災害発生3週間後の労働者死傷病報告書の提出は労安法違反?
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