退職労働者が申告した場合の労基署の対応は?(Ⅷ)
●本件概要
A社は3か月前に経営不振から事実上倒産し、それに伴い従業員は全員退職したが、先月退職した従業員から未払賃金の支払いを求める請求があり、「倒産したので資金がなく支払えない」と説明しても従業員は納得せず、それなら所轄労基署に申告して調査させると言われたが、このような申告がされた場合には、労基署はどのように対処するのでしょうか。
●関係法条
●労働基準法第104条(監督機関に対する申告) 1 事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。 ●労働基準法第104条の2(報告等) 2 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる |
●本件の解説
適用事業場とは、労基法第9条でいう労働者を1人以上使用している場合、営利目的でない事業も含め、労働基準法が適用されます。
本件元従業員が言うところの「監督機関に対する申告」の規定は、本法のほか労働安全衛生法などにあるが、全ての法令において、この申告ができる者は「労働者」という身分を有する者に限られています。
すなわち、労基法9条の「労働者」とは、現に企業等に雇用されて労務を提供し、その対価として賃金を支払われる者をいい、「事業又は事務所」とは、この労働者を1名以上使用するものを指しています。
よって、本件事例のように3か月前に事業倒産し、従業員が全くいない場合は、A社は「事業又は事務所」に当たらず、元従業員も「労働者」の身分を失ったことから監督機関に申告することは認められないと解されます。
しかし、各法令には「労働基準監督官は、上司の命を受けて、法に基づく立入り検査や司法警察員の職務その他法令の施行事務を司る。」ことができるとされ、それを根拠に法令や行政目的に反しない範囲内において、強制力を伴わない行政指導などの措置を取ることで事案の解決処理に当たっています。
ただし、労基法違反として立件捜査することは差し支えありません。
■その他 事例紹介