プレス災害で任意捜査に応じず逮捕された事例(Ⅳ)

●本件概要

 K労基署は、T社と男性工場長を労安法違反(事業者の講ずべき措置等)の疑いで逮捕し、O地検に工場長を身柄送検し、T社もその後書類送検しました。
 逮捕容疑は、金属製品製造業を営むT社工場において、金属部品の加工作業中の女性従業員がプレス機械の金型に左手の人差し指と中指を挟まれ切断するという労働災害が発生しました。
 監督官の災害調査により労安法で定める安全囲設置などを講じず作業させたことから、監督官は労安法違反の疑いで捜査着手し、任意の取調べに男性工場長は「従業員の注意力がなかった。こちらに責任はない」などと容疑を否認し、その後の出頭要請にも一切応じないので、男性工場長に証拠隠滅の恐れがあるとして、裁判所に逮捕状を請求し、その発付を受けて男性工場長を通常逮捕し、O地検に身柄送検し、T社もその後書類送検しました。

●送検法条

●労働安全衛生法違反

・T社(事業者:両罰規定)
労安法20条1号、労安則131条1項、労安法119条1号、労安法122条
・男性工場長(従業者:違反行為者)
労安法20条1号、労安則131条1項、労安法119条1号、労安法122条

●本件の解説

 監督官が、労安法違反の疑いのある被疑者を逮捕することができるのは、労安法第92条の規定で刑訴法上の司法警察員としての権限行使が認められていることによります。
 なお、被疑者を逮捕するには、次の2つ(①逮捕の理由、②逮捕の必要性)の要件を充足する必要があるとされています。
 逮捕の理由とは、被疑者が法令違反を犯した犯罪事実をいい、「女子従業員の手指が危険限界(上下行程)に入らないような安全囲を設置せずに加工作業を行わせた」ことが当たります。
 逮捕の必要とは、被疑者が任意捜査に応じない場合には、被疑者に逃亡又は証拠隠滅のおそれが認められるとして逮捕されることがあります。
 通常、被疑者の協力を前提とした任意捜査が原則であり、労基署での強制捜査(逮捕・捜索差押)は年に数件程度とされています。

 

■その他 事例紹介

■労安法違反が不起訴とされた事例 ■過重労働で書類送検された事例
■熱中症で書類送検されたが構成要件に疑義のある事例 ■賃金不払で労基法違反でなく最低賃金法違反で送検された事例
■法令違反を否認したにもかかわらず労基法違反で送検された事例 ■機械故障時の事後安全対策の不備で労安法違反で送検された事例
■退職労働者が申告した場合の労基署の対応は? ■労働災害発生3週間後の労働者死傷病報告書の提出は労安法違反?
■労働基準監督官の司法処分とは?
Copyright(c) 武田社会保険労務士事務所 All Rights Reserved.