機械故障時の事後安全対策の不備で労安法違反で送検された事例(Ⅶ)

●本件概要

 神戸東労働基準監督署は、神戸市灘区の森永乳業神戸工場で昨年8月に発生した死亡災害を受けて、同社と同神戸工場のアシスタントマネジャー(40)を労安法違反の疑いで神戸地検に書類送検しました。
 送検容疑は昨年8月23日に、同工場で発生した製造機械の不具合対策のため同機械の運転停止をせず、同機械の中に入り手作業でカップ供給をしていた男性従業員(58)は同機械が運転待機中であったことから突然動きだした結果、同機械に巻き込まれて死亡したとされています。
 なお、送検されたアシスタントマネジャーは、被災者の直属上司で死亡災害はその目前での作業中に起きたとされています。

●送検法条

●労働安全衛生法違反

・森永乳業(事業者:両罰規定)
労安法20条1号、労安則107条1項、労安法119条1号、労安法122条
・アシスタントマネジャー(違反行為者:従業者)
労安法20条1号、労安則107条1項、労安法119条1号、労安法122条

●本件の解説

 本件のような大手製造業において、製造機械の不具合対策のため同機械を運転停止せずに、直属上司が同機械の中に入り手作業でカップ供給するなどの不安全行動を黙認するなどの行為は俄かに信じ難い話であると解されます。
 本件の場合、製造機械の不具合対策のため同機械を完全停止させ、当面の手作業で生産確保とその後に同機械の調整補修をすべきであったと解されます。
 また、製造機械の不具合があるのに、同機械の運転停止をせずに同機械の中に入ることで、急に機械が動き出したら危険なことは常識で理解され得る場合、災害発生の予見可能性及び結果回避義務違反が認定され、アシスタントマネジャーは刑法211条違反(業務上過失致死傷等)も問われると解されます。
 さらに、事業者(法人)と工場長などは、労働者を作業させるに当たって安全な作業環境下で作業従事させるという民事上の安全配慮義務が民法415条を根拠として課されることから、本件のように明らかな不安全状態下での作業従事させた場合には、事業者等には損害賠償義務も生じるものと解されます。
 また、労災保険法上の費用徴収も課されることになると解されます

 

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